第18回 富士カントリークラブ
富士CCには富嶽百景がある
このコースでは、18ホールのどこに居ても富士山が見える。だからこそ富士カントリークラブである。そのことを筆者は嘗て「富士CCには富嶽百景がある」と書いたことがある。再録する。
「ティグラウンド上から正面に仰ぐ富士、フェアウエイ途中枝越しに見えたり隠れたりする富士、1ホールにいくつもの富士がある。そして極め付きは、山小屋風クラブハウス2階の大窓をタブロウにして見る富士、「ピクチュアウインドウ」の見事さである。初代理事長山形章氏が、ドイツから輸入、寄贈した厚さ20ミリの大ガラスである。
富士CCをプレーするたびに、今もこの感興は変わらない。
昭和30年、東名高速開通に先立つこと12年である。5ヶ町村合併で御殿場市に昇格したものの、広大な自衛隊演習場はあっても大きな税収源となる企業法人はゼロ。「ゴルフ場を造ろう」と気運が動く。同じ箱根山脈の東側では、戦前からの仙石ゴルフコースがあり、新しく箱根CCも開場した。気候的には、湿度の高い東の仙石に比べ御殿場は乾燥していて冬も雪が少ない。別荘地向きだ。すでに西園寺公望山荘、秩父宮家別邸、岸信介別荘などが点在している。
計画の発起人筆頭に選ばれたのが、後に総理大臣となる石橋湛山だった。御殿場地区は政治家湛山の選挙区、勝俣御殿場市長は、その選挙事務長だった。
「俺の親戚にエキスパートがいる。研究させてみよう」と湛山氏が紹介したのが赤星四郎だった。石橋家の子息夫人が、四郎、六郎の名手兄弟を生んだ日本のゴルフ名族赤星家の出だった。最初、現在の富士平原GCのある場所が候補に上がったが、演習場が近すぎるとして、現在地の東山地区秩父宮別邸の裏山16万坪に決まった。
昭和32年2月赤星四郎社長で富士林園(株)設立。昭和32年9月10日、富士林園を引継いで(株)富士カントリー倶楽部設立。社長・理事長山形章(塩水港精糖社長)昭和33年4月5日9ホールで仮オープン、同年8月16日全18ホール、6693ヤード・パー72を開場した。クラブは、(株)富士カントリー倶楽部の株主が、倶楽部の会員となる株主会員制。全会員が全く平等な権利と義務をもつベリー・プライベートクラブ・システムである。
赤星四郎設計は、自然に対して自由自在
富士CCのコースを、起伏が大きく変化が多すぎると見るか、自然の形がより多く残されていると見るかは、プレーヤーの教養の問題である。
設計者は、このコースを手造りに近い形で造っている。いや手造りとは俗にすぎる。設計者は、自然の前でいつも敬虔、自然体である。たとえば17番グリーンは高低差1.8メートルの2段グリーンだ。7番、12番、16番グリーンも高低差1.2メートルの2段グリーンである。奥の段にグリーン・オンしたらコースに馴れたシングル級のメンバーでも、大いに手古摺らされる。だから人々は、
「富士カンの砲台型の2段グリーンには泣かされる」と言う。しかし、これらの2段グリーンは、土を積み上げて造った砲台グリーンではない。地形の中の自然のコンターラインの中に昔からその山腹に在ったかのように置いた2段グリーンである。周辺の地形から流れてくるスロープをそのままグリーンの起伏、変化として取り込んでいるので、ボールがよく辷るのである。富士CCでは、フェアウエイもラフもグリーンも造ろうとして造られたのではなく、山の自然の中に捜し求めてそこに置かれた18ホールだと考えたほうが、正確だろう。
筆者は、赤星四郎の設計理念は、自然体の美学だと思っている。柔道では、相手が押せば引け、引けば押せ、それを自然体だと教えている。自然に向う時の赤星四郎には、そういう自在さとたじろぎのなさが感じられるのだ。
難ホール中の難ホールは・・・
普通のゴルフ理解を持っている人の多くは、バックティからグリーンまで57メートルを打ち下して行く13番(581ヤード・パー5)を最も印象的、攻略性の高いコースとして上げるだろう。打ち下ろしだけでなく、右ラフからフェアウエイ、ラフへ左流れのスロープもあって、第1打から2、3打までランディングポイントの選び方が難しく、且つ正確さを求められる意味で、1番の難ホールであろう。しかし筆者は、13番ではなく14番が好きだ。
14番(379ヤード・パー4)は、何よりも右から左へゆるい曲線をえがきながら広がっているフェアウエイは、ブラインドだが、その広がりの大きさが好きである。グリーンはブラインドだが意に介さない。広いフェアウエイは、富士CCという山の持つ曲線、コンターラインを如実に映していて、その大らかさが好きだ。
闘い甲斐のある相手は、12番(355ヤード・パー4)だろうか。前方180ヤードに衝立ように高さ20メートルの壁が遮る。フェアウエイはその上から始まる。白マークからでも150ヤードをキャリーで飛ばさないと丘の上には登れない。第2打でようやくフェアウエイに上げた人は、左側のエスカレーターを利用できる。このホールは、距離は短いが、グリーン周り右半分が深いダウンハローになっていて、パーセーブが難しい。
倶利伽羅峠のような大きな打ち下ろしの1番(413ヤード・パー4)をやっとパーにまとめて吻っとした時、意外に罠にはまりやすいのは、2番(400ヤード・パー4)だ。ティから見たフェアウエイは、右から左へ山なりに傾いている。どこへ落とすか。やっと安心したら第2打の眼前、グリーンとの間に約10メートルの深いハロー陥没が現われる。第1打が正確に計算されていない場合、第3打でグリーン狙いとなる。
しかし、何よりも13番のドラスティックな打ち下ろしに続き、1番の45メートル打ち下ろし12番39メートル打ち上げ、17番33メートル打上げなど、第1打の劇的攻略シーンが多いので、このコースでは、緻密な計算と同時に、気力負けしない闘争心が必要である。
また俗に、富士周辺では、芝目は富士山から下へ流れるといわれているが、富士CCでは通用しない。富士CCは、箱根連山側に属しているので富士俗説とは真逆、富士山に向って早くなるから要注意である。
所在地 静岡県御殿場市東山2472
0550‐82‐1616
開 場 昭和33年8月16日
コース 18ホール、6739ヤード・パー72
設 計 赤星四郎
コースレート 71.8
コースレコード (アマ)山崎博靖 69
(プロ)安田春雄 66