第65回 東宇都宮カントリークラブ
自然+バンカー+水景美の魅力
気張る(きばる)-という言葉がある。岩波国語辞典に「①いきごむ。勇み立つ。元気を出す」とある。「②思い切って金銭をはずむ。チップを出す」ともあるが、こちらは本稿とは関係がない。
この文章は、二人の気張った男のことから書き始める。そしてそれは、結果として東宇都宮カントリークラブの魅力を書くことになる。
東宇都宮CCは、那須小川CC(栃木県)の第2コース開発から始っている。現在の東宇都宮CC理事長、東宇都宮観光㈱社長の広中三男は、その現地開発プロジェクトチームのリーダーだった。ところが、用地交渉がまとまり契約段階になって、親会社が建設を中止。現地リーダーだった広中は、協力した地主たちとの信頼関係を守るために、現地チームをそのまま東宇都宮観光㈱に発展させて、昭和49年7月10日最初の18ホールズを開場したのだった。
設計の小林光昭とは、那須小川GCを設計したのが機縁、小林は日本緑化土木㈱設立に参加、その仕事の中で安田幸吉、三好徳行、井上誠一らの設計術を習得、独立して伊香保国際CC、草津CC、那須小川GCで共作、監修の仕事をしていたがまだ新鋭、完全なソロデザインは東宇都宮CCだったと、広中社長は証言する。15年後に増設した西コースを含めて、「自在に腕を揮って貰った」という。
東宇都宮CCの成功の後、小林は、キングフィールズGC、鳩山CC、湯の浦CC、ザ・ピリビレッジなど36コースを世に出す売れっ子設計者となった。
2人の気張りッ子が、東宇都宮CCを世に出したのである。
経営面でも、社長広中三男は気張った。開場以来40年、メンバーには情報公開を徹底、また名義変更停止ナシ、据え置き期間延長もナシ、次々に倒産事件が起った預託金償還不況期にもたじろがず対応した数少い独立資本の一つであった。
バンカーリングの妙 東・南コース
ウォーターランドスケープ 西コースの美と戦略性
「今あるコースの中で最も素晴しいと感じるのは自然が創ったコースです」
マスターズ・トーナメントのオーガスタ・ナショナルGCを設計したアリスター・マッケンジーの言葉である。
しかし自然にも限界がある。まして国土の狭い日本ではそこに在る自然に語らせるだけで、ゴルフコースとして十分に美しく十分に楽しめる戦略性が期待できる素材は、そう多くはない。
では意に適う自然に恵れない時、設計者たちはどうするか。バンカーや水景を考える。その数、置き方、かたちを工夫して、自然と見紛う魅力ある表情を造ろうとするだろう。昭和49年開場の東宇都宮CC東・南コースは、バンカーリングの妙を主眼に造られたコースである。代表例は、グリーンまわりを10個のガードバンカーで堅めた東2番(パー3)と南6番(パー5)グリーンまわりのバンカー配置である。「池を造るには地形に無理があり狹かった。創業初期で資金にも限界があった」(広中社長)という事情もあったようだ。
昭和49年誕生の東南18ホールは殆んど水景ナシのバンカーリングの配置、造型で、各ホールの表情を作っている。
これに対し15年後の平成元年7月に増設された西コース(9ホール)は、高低差6メートルの広くて平坦な用地の中心に、池というよりレイク(湖)に近い大きな水景を置き、その水際と水面に3番、5番、6番の印象的な水景ホールを置いたレイクサイドコースに仕上げたのが特徴である。
15年の間に、コースデザインの時代性向も変わったし、設計者小林光昭も脱皮していた。小林はレイクウッドGC(神奈川県、昭和45年開場)の造成に際して、水の魔術師といわれた米人設計家T・G・ロビンソン(元米国設計家協会会長)の下で働き、その影響で水面の戦略性にこだわる水際設計で売り出していた。たとえばキングフィールズGC、浜野GC、鳩山CCなど、在来は造園的な美しさで見られていたコース内の水面を、置き方によって戦略性が変化する対角線ハザードとして据えるという新しい設計で人気が上昇していた。
15年の間に小林は、バンカーリング中心からバンカーや水景・ウォーターランドスケープの設計哲学に進化して行ったのである。以下、西コースのうち主なウォーター・ランドスケープホールを紹介しよう。
“用を以って美となす”水景3ホール
3番(344ヤード・パー4)高低差マイナス4m。右側に大きな水面(池)を見ながら、第一打はゆるやかな打下し。フェアウェイは広いので、右の池にこだわず豪快に打て。目標は、正面に見えるモチの木のやや左狙いが安全、ベスト。グリーンは砲台型だから高い球でピタリと止めたい。ヤーデージは短いので焦らず正確に2オンしたいホールだ。
5番(390ヤード・パー4)高低差マイナス6メートル。フェアウェイの両側に池の水面が広がる。グリーン前には、両水面を結ぶクリークがあるから第2打では要警戒である。ともあれゆるい打下しのテイグラウンドに立つと、フェアウェイは湖に浮いた島に見えて、ウォーターラウンド・スケープの景観美が楽しい。ひと息水景美を楽しんだら、両側の水面は無視して豪快に打ちたいが?第1打をミスしたら、第2打は、グリーン前を横切る水面の手前に刻み、慎重に攻めたい。
6番(430ヤード・パー4)高低差マイナス4メートル。フェアウェイは、250ヤード地点で右に池を抱いてドッグレッグしている。その池に突出した小半島(鼻)がある。ここがグリーンへの最短距離(210ヤード)だが危険も大きい。高いボールで大きく打てるかどうか。成功したらロングヒッターの名に値する。ギャンブル性とストラテジーが一緒になった魅力あるホールだ。
「用を以て美となす」という古諺があるが、この2ホールは、戦略性の高いホールは且つ美しいという見本である。
そして最後に9番ホール(448ヤード・パー4)7.5メートルを打ちおろすドラコンホール。ここも第2打が池越えだが、距離もありグリーン回りが池、バンカーと狭いので、右まわりの3オンが賢明かと思うが如何?
所在地 栃木県那須郡烏山市鴻野山1011
コース規模 西 9H・3392Y・P36
東 9H・3360Y・P36
南 9H・3488Y・P36
設計 小林 光昭
開場日 昭和49年7月10日