第72回 富里ゴルフ倶楽部

 

 

サイプレスポイント16番ホールをイメージして・・・
 

富里ゴルフ倶楽部 7番 175ヤード Par3

富里ゴルフ倶楽部 7番 175ヤード Par3

 平成元年6月10日。富里ゴルフ倶楽部が本開場。その日に筆者は、プレーしている。そしてその感想を、あるゴルフ専門紙に連載ペースで4回、紹介している。
 筆者にとって富里GCの登場は、小さくない事件だったのである。その文章はつぎのように始っている。
 「印象に残ったのは、7番パー3である。ゴールドティから175ヤードの打ち下しパー3だが、グリーンの前面、池の護岸を巨石で固めているので、グリーンが遠く見える。岩の演出効果である。この巨岩怪石は、アメリカ製の人口石で、その量威は自然の巨岩を超えている。岩の周辺には、2万株のハクビシンが這い廻り、グリーンまわりには、数十本の百日紅が植えられている。
 姿の美しさでは、最も印象に残るショートホールである」
 こんなに恐わくも美しい魔物のようなパー3ホールは、珍しい経験だった。多くの人がこのホールのティに初めて立ったとき、そう感じるだろう。いや正確に表現しておこう。ティグランドに上ったときは、表現はきついが美しい日本庭園に見えたものが、ティアップして打つべく構えた途端に、怪物のような難ホールに変幻するのはなぜだろうか。
 設計者のJ・マイケル・ポーレットによるとこのホールは、世界一美しいパー3ホールといわれる、米国西海岸モントレー半島の名門クラブ、サイプレスポイントクラブ16番ホールをアレンジした作品だという。
 サイプレスポイントクラブは、簡単にはプレーができないエクスクルーシブな名門だが、16番ホールを見るだけなら、モントレー半島をめぐる16哩ロードを走れば、じっくり見学できる。筆者も2回経験がある。16哩ロードに車を止めて海越えに16番グリーンを望む。グリーンの背後には、限りなく荒ぶる太平洋の蒼黝い海面が広がる。近くに小島1つ。そこには多くの海豹が群がっていたりする。
 すっかり北海の姿で見えるのだ。ポーレットはそこに、クルージングベイやドーノックのグリーンの向うに広がっている北スコットランドの北海を見たのではないか。
 その北海なら富里GCオーナーの早川治良もすでに見ている。北海の海風にさらされるスコットランドは、早川にとってリンクスランド指向の原点だった。富里GCのすぐ1年後に、カレドニアン(スコットランドの古い名称)という名称の名コースを造っているほどである。

スコットランド指向の戦略型コース
 

富里ゴルフ倶楽部 15番 359ヤード Par4

富里ゴルフ倶楽部 15番 359ヤード Par4

 早川治良にとって、富里GCは、新しい覚醒を意味する作品だった。
 早川社長は、富里GCの出発に当って、会報『THE FORUM』の冒頭で、「スコットランド指向の戦略型コース」を宣言している。彼は自身の皆川城CC、オークヒルズの体験から、“広くて、長くて、フラットで7000ヤード以上が名コース”とする日本ゴルフ界の概念に疑いを持ち、ゴルフの原点、スコットランドのリンクスランドに見られるような地形の自然なうねりや複雑、多様な変化を生かしたコース、長打力偏重ではなく、技術と頭脳的な判断を求められるような名コースづくりを、このコースで宣言したのである。
 そこで彼が求めたのは、スコットランドの哲学とアメリカの設計技術、それもアメリカの戦後世代の新しい視点だった。
 設計者J・マイケル・ポーレットは、1970年陸軍士官としてタイのバンコク駐在中、現地ナバタニGC建設中のトレント・ジョーンズ・シニアと知り合い、そのアジア事務所長となり、後に独立、日本ではブラット・ベンツと組み、ベンツ&ポーレット社としてプレステージCC(栃木)を手がけたのが最初。その後マイケル・ポーレット・デザイン主宰、米国では東海岸中心に200コース以上、日本では、キングフィールズ、グレン・オークスなど14コース。中でも富里GC、カレドニアンGCの東京グリーンとの交際が深いのは、ポーレットが、アイオワ州立大、ウエスレイアン大で、自然科学、林学、地形学、都市計画、造園学など深い造詣をもっていたことが、新しいゴルフコース像を探していた早川社長とマッチした理由の1つであろう。因みにポーレットは、富里GC完成のため、スパーバイザー(監督)の他、(小型ブルドーザーでグリーン、バンカーをつくる役目の)4~5人の設計者、シエーパーを送り込んでいたと記録されている。

全18ホールがすべて難ホール?!
 

富里ゴルフ倶楽部 17番 394ヤード Par4

富里ゴルフ倶楽部 17番 394ヤード Par4

富里GCについて評価は、2つに分れる。おもしろいコースだが、ヤーデージがやや短い、もう1つは、ゴールドティから打っても6844ヤード、長くはないが、18ホールすべて個性的、攻め方が違うのでまた行きたくなる。
 眺めて美しく、攻めて興趣尽きないのは、7番パー3だけではない。アトランダムに挙げてみよう。
 9番(452Y・P4)2段グリーンの左奥にピンが立っていたら、ベストショットを2回打ってもパーセーブでは難しい?
 16番(203Y・P3)横長のグリーンが斜めに置かれている。ここでは、右側にピンが立っていたらボールを落す場所を探すのに苦労する。
 ――以上2ホールは、ピン位置によっては攻め切れないアメリカ流造形グリーンの例。
 14番(435ヤード・パー4)ゆるく左ドッグレッグのパー4。ピンが左端バンカー越えのときは攻め難い。よく考えて。第1打はフェアウェイ右寄りに落す。左側へ飛んでしまったら第2打が狭い視野へフックボールを打つ破目になり、難しい。ルートをどう選択するか、ドッグレッグホールでは高い判断を求められる。
 18番(539ヤード・パー5)最後にバーディチャンスが来ただなどと甘い作戦を脳に描いてグリーンを窮ったら肝をつぶす。グリーン中央部が大きな断層のように凹んで横断しているのだ。アプローチする身には、2つのグリーンである。そういえばアメリカン様式の設計では、オングリーンしてから新しい戦いが始まるものだ、と聞かされていたっけ?
  17番(394ヤード・パー4)2オン楽々と甘く考えたら、グリーンは、入口から3段、4段と波状に段差があって、何枚目の波にピンが立っているか、正確に読み切ってショットしないと失敗する。
 17番も18番も、なぜこれほどグリーン面を激しく変化させたか。設計者は、単にグリーンに乗せることではなく、ピン2ヤード半径にピッチマークを集めようと狙っているのではないか。
 日本の多くのコースのように、富里GCでは、設計者は飛距離だけを求めているのではなく、飛距離そして頭脳を求めているのである。それがリンクスランド型戦略コースの真骨頂である。
 
所在地     千葉県山武郡芝山町小原子773
          電話0479-78-0002  FAX0479―78-0290
コース規模   18ホール・6844ヤード パー72
コースレート  男72.6 女子77.9
設計者      J・マイケル・ポーレット
開場年月日   平成元年6月10日