第74回 鳩山カントリークラブ

 

 

「越えるだけの池はつまらない」
 

鳩山カントリークラブ クラブハウス

鳩山カントリークラブ クラブハウス

 開場して間もない、鳩山カントリークラブに“ぞっこん”になって、入れ込んでいた時期がある。108回まで続けたプラコン「名門の会」を2回催した。多くのゴルフクラブの倒産事件解決で弁護士として活躍された日弁連会長(JGA顧問)藤井英男夫妻とラウンドしたのも、鳩山CCだった。その頃藤井先生は、週2回の腎臓透析を受けられながら弁護士界トップで活躍されていた(と後で知った)
 その頃鳩山CC周辺JR八高線と私鉄東上線の間の地域では、越生GC、日本CC、石坂CCなど個性あるコースが、軒を並べるように誕生した。その中で、私には、鳩山CCは、際立って美しく、どこよりも戦力的に高く見えた。
 そしてコースをプレーしてみれば、それらの魅力は、コース内で置がれた多くの池の働きだと判る。その頃、新設されるゴルフコースでは、水際設計という言葉が流行っていた。それまでのコースのようにグリーンやティの前だけでなく、フェアウェイの左右にも、ときには真ん中にも、それまでの日本のコースにはなかったような広い水面の池を置くことが流行していた。
 鳩山CCを取材したとき、そのことに触れると、設計者小林光昭は、「超えるだけの池はつまらない」とひと言でしりぞける口調だった。

設計者・小林光昭とその周辺
 
 鳩山CCでは、小林光昭は、三好徳行との共同設計者とされているが、三好は、老齢で殆んど名義上だけ、実際は、用地を歩き、検分し、設計図面を書いたのは小林光昭だった。因みに、三好、小林の共同設計は、毎年の女子プロ最後のメジャー競技ツアー選手権の会場宮崎CCの他 富士桜、麻生飯塚、筑紫ヶ丘、今治、赤坂レイクサイドなど10指を超える。
 三好は、戦前からのアマチュアの名手。戦時中満州に渡り満州アマ優勝、戦後日本アマ選手権に昭和28年~30年と3連覇、巧緻なショートゲームを揮って〝精密機械″といわれた。小林は「三好さんの影響は大きい。三好さんの考え方は、ほんとに緻密、それも自分のゴルフに合わせるんですよ」と語っている。
 小林光昭が尊敬する設計家は、「小林英年と三好徳行、外人ではT・ロビンソンです」である。小林は昭和21年、故郷の愛知県を出て、東京の叔父小林英年が勤める日本緑化土木に入る。終戦直後の米軍に接収され白いペンキで塗り立てられていた小金井CCを知っているというから、昭和22、23年頃か。叔父小林英年は、日本緑化の設計部長として多くを手がけたが、ソロデザインでは紫CCすみれ(千葉)などがある。
 テッド・ロビンソンは、米国で水際設計で名を挙げた設計家(後に米国設計家協会会長)。日本では、レイクウッドGC(36H)を設計、東コースで水際設計の妙を発揮している。日本緑化土木で働いていた小林は、建設中その下で働いて、ロビンソン流水際設計の要諦を学んだのである。

水際を攻め抜くには勇気と賢者の判断

鳩山カントリークラブ 18番ホール

鳩山カントリークラブ 18番ホール

設計者小林光昭は、ロビンソン流の水際設計で名を挙げた人である。さらに、「越えるだけの池ではつまらない」と言い放つほど、独自の水際設論を網み出した。小林は、鳩山CCの池に、何を付加しようとしたのか。
 その原型が、鳩山CC7番ホールの“池の越え方”である。
 7番(384ヤード、パー4)、距離はそれほどではない。しかしフェアウェイは右側に大きな池を抱え込んで大胆に右へドッグレッグしている。プレーガイドによると、慎重な人は、第1打は左側真っ直ぐに見える200ヤード先の二つのバンカーを狙うそうだ。 しかし右池面を越えて向う、そんなに遠くない所にグリーン上の旗がはためいている。ストレートの1オン狙いは強引すぎるとしても、グリーン前のフェアウェイに落とせば第二打は短いアプローチでピタリ。バーディだ。
 第1打は安全にストレートにフェアウェイ狙いか、あるいは勇敢に、池越えのグリーン前狙いか“どちらを選ぶか、それがこのホールの戦略性である。
 H・Sコルト、C・Hアリソン共著『ゴルフコース設計論』の中に出ている「キャリーの選択」と「対角線ハザード」を応用した手法に見えるが、それを、大池を挟んだ大胆な右ドッグレッグホールに当て嵌めて、採用したのが、小林光昭流戦略性である。
 なお小林は、この手法を、キングフィール18番、浜野G11番でも採用している。
 (因みに、日本ゴルフコース設計家協会では、この小林の手法に類する方法を、対角型設計から派生した英雄型設計と称している)
 小林光昭は、さらに念を押している。“越えるだけではない池越え”は、1ホールだけでは十分に戦略的とはいえない、と主張している。鳩山CCではどうか。

越えなくても難しい3ホール

 7番ホールに呼応するのが9番ホールである。
 9番(543ヤード・パー5)は、フェアウェイの右側に二つの大池が伴走し、左グリーン前にはもう一つ、岸の深い池を置いている。このホールの難しさは、第1打の打ち方の微妙である。フェアウェイ右は、二つの大池が続き、左側は、松の樹林を途切れずに並べている。左サイドは狙い難い設計だ。では右狙いか。それもできそうにない。フェアウェイは右に傾斜していて、しかも水際には、フェアウェイからころがってきた球を止めるための1フィートのラフもない。しかも右傾斜である。
 理想的にいえば、右からのドローボールでフェアウェイ中央に落すのが一番だが、打ち損ねたときの痛手は大きい。小林は、
 「越えるだけの池はつまらないですよ」
 と言った。二つのこの池は、越える必要はないが、2打、3打とプレーヤーを強迫しつづけるのである。左グリーンの場合は、更に、失敗したらコロコロと池である。
 しかし7番、9番に成功すれば、鳩山CCは、ぐーんと輝いた姿で見えてくる。
 インコースはヒーリー(丘陵性)だから、池越えは17番、18番だけ。それも小さい池だ。だがそれが曲者。水際は、水面から屹立する約2メートルのスリーパーである。1フィートでも短かければ、球はコロコロと水面にころがり落ちる。
 18番(567ヤード・パー5)ストレートに温和しそうだ。池も小さく右グリーン右前に一つだけ。見くびって2オンを狙うと、グリーン近くのフェアウェイは右へ傾斜しているので池へ。池の手前に止めて確実に3オンを狙うが賢い?鳩山CCの池越えは、勇者の決断だけでなく賢者の判断も求めているようだ。ー

所在地     埼玉県比企郡鳩山町大字大橋1186-2
コース規模   18ホール・7155ヤード パー72
コースレート  73.1 
設計者     三好徳行 小林光昭
開場年月日   昭和61年10月1日
コースレコード アマ 宮本 清 70
          プロ 尾崎将司 63 (平成20年現在の記録)
経営       (株)鳩山カントリークラブ