第64回 ザ・サザンリンクスゴルフクラブ

 

 

日本に稀な“断崖ホールの迫力”
 

ザ・サザンリンクスゴルフクラブ クラブハウス

ザ・サザンリンクスゴルフクラブ クラブハウス

 筆者は、沖縄のゴルフ場経験は、大京、琉球、那覇、ザ・サザンリンクス、パームヒルズ、沖縄国際、そして今は姿を消したアワセメドウの7コースである。浅い経験である。その中で、一番印象に残っているのは、涯しなく広い太平洋の海岸に沿ったザ・サザンリンクスの断崖美である。
 日本は、四方を海に囲まれた島国である。海岸に沿ったシーサイドゴルフコースは少くない。しかし、大洗、片山津、古賀に代表されるように、殆んどが砂浜の海岸に広がる防風林、防潮林の中のシーサイドリンクスである。断崖絶壁の上に造られたコースは絶無に近い。僅かに有名コースでは、川奈・富士コース15番がそれに近いが、断崖というにはやや低くさらに海ぎわには大木の松が列をつくり、断崖ホール独特のスペクタクル感が少い。パサージュ琴海(長崎)、夏泊(青森)に、崖の上から放つ数ホールが印象に残るが、残念ながら、ともに内湾である。
 見渡す限り、視野いっぱいに広がる太平洋の青い海面を40~50メートル下に見下してそそり立つ沖縄本島東海岸に展開するザ・サザンリンクスGCの断崖シーンの迫力には、較ぶべくもない。それにここに列なる断崖列には、歴史の記憶がある。
 2002年(平成4年)筆者は、次のように書いている。
 「太平洋戦争末期、米軍に追われた日本軍や沖縄県民は、南へ南へと逃れて糸満、摩文仁に追い詰められ、そこで散華する。歴史の偶然だろうか。不思議なことにいま、その地域には、那覇、琉球、ザ・サザンリンクス、パームヒルズなど沖縄の有名コースが集まる。パームヒルズの打ち下ろし12番ホールからは、ひめゆりの塔が望まれる」
 昭和60年コース造成に着工した頃はまだ、用地内には、終戦直前に連日くり返された米海軍の艦砲射撃が落した不発弾が残っていた。磁気探査をしながらの伐採、 土工事だったと、施工関係者から聞いたことがある。
 しかし今は、平和。太平洋の大パノラマに向って真正面から一直線に打つ1番(375ヤード・パー4)は“初日の出”御来迎のスポットとして、ゴルファーに人気、ホテル(52室)は満員になるそうだ。

スペクタクルな7、8番を攻める
 

ザ・サザンリンクスゴルフクラブ 7番(パー4)ホール

ザ・サザンリンクスゴルフクラブ 7番(パー4)ホール

 ザ・サザンリンクスには、太平洋の涯しなく広く青い海面を、50メートル下に見下してそそり立つ断崖が連っている。そこに「東洋のぺブルビーチを造る」と発想して生れた18ホールだと聞いた。だが断崖の凄味が違う。ペブルビーチは、カーメル湾という内海だ。ここは太平洋上に裸で突出した断崖上のリンクスランドだ。自然の大きさ、迫力が違う。断崖ショットは、ぺブルビーチは、7番、8番だけ。ここも7番、8番だ。しかしここには太平洋がある。景色の大きさ、威圧感、穏やかな日のおおらかさで、ザ・サザンリンクスのオーシャンフロントが上であろう。
 1988年(昭和63年12月1日、18ホール、6721ヤード、パー72が開場。設計は自社㈱琉球リゾート。匿名の人は誰れか。関心を持ちたくなるほどルーティングも戦略設計も的確。海に面したシーサイド区域とクラブハウス裏の低地になった内陸部を上手く交差させて、戦略度のバランスをとっている。断崖美の2ホールも十二分に凄いが、たとえば10番(572ヤード・パー5)は、プッシュアウトした右の法面が、原地型の地表を剥いだだけの手掴みの面白さがいい。広いフェアウェイをひたすらストレートに延した12番(412ヤード・パー4)も殆ど手つかずの不作爲の魅力、ひたすら真っ直ぐというシンプルスさが、プレーする人をヒロイックにする。リンクスの先輩スコットランドにも、こんなホールはそんなに多くはない。
 このように内陸部の各ホールも悪くはない。しかしザ・サザンリンクスの評価を高めているのは、断崖越えの2ホールである。今回は、その7、8番ホールを紹介する。
 7番ホール(418ヤード・パー4)遥か向うの断崖上にグリーンが見える。テイとの間には約418ヤードの太平洋と50メートルの断崖が挟まれていて、むろん1オンは無理。フェアウェイは左廻りでグリーンへ伸びて、幅員は十分に広いがグリーンへ約5メートルの上り坂だ。2オンには幸運が必要だ。第1打は左フェアウェイへ狙うわけだが、飛ばし屋ほど右の方へ大きく海を越える。自信のないプレーヤーは、テイの直ぐ左下のフェアウェイへ少しばかり飛せば安全。しかしそれでは5メートルもの右上りスロープのフェアウェイで、3オンは覚束かないし、7番ホールでプレーする意味がない。ここでは冒険しよう。コルト&アリソン理論の対角線ハザードに、太平洋の大断崖を当てはめた傑作ホールである。自社設計の陰にかくれた設計者の個人名を知りたくなる…。
 8番(181ヤード、パー3)ここはバックテイから打ちたい。テイは、太平洋に突き出した断崖上にある。181ヤード先のグリーンは40メートルの断崖上で表面は見えない。ドライバーでも届きそうにない。アゲンストの風に、雨も降り始めた。足が竦む。諦めて120ヤードのレギュラーテイに移った。グリーンを見下すテイ位置から7番アイアンで、エプロンまで運んだ。筆者の8番ホール・スペクタクル体験である。
 なおオープン後の改造で、現在のホール・ルーティングは、インコースの16番(パー4) 17番(パー3) 18番(パー4)も、断崖越えショットはないものの、右側に太平洋を見ながら打ちつないで進む雄大な展開の断崖上シーサイドリンクスとなっている。

所在地      沖縄県島尻郡八重瀬町字玻名城697番地
コース規模   18ホール・7030ヤード・パー72 
設計        ㈱琉球リゾート
コースレート   未査定
開場日      昭和63年12月1日
経営        ㈱琉球リゾート → ㈱アコーディアゴルフ