第73回 成田ゴルフ倶楽部
筆者が、ゴルフコース設計者川田太三氏の作品と始めてめぐり逢ったのは、成田ゴルフ倶楽部であった。こんな表現が許されるならば、成田GCは、ゴルフ教養の溢れたコース、作品である。
設計者川田太三氏の魅力
成田ゴルフ倶楽部へ行けば、入口のゲートからクラブハウスの玄関まで、長いエントランスを走らされる。
「その長さは、10番(パー5)11番(パー4)の長さで、2つのホールを、左側マウンド列越えに、チラホラと暼見しながら、車を走らせる。
できるならこの1000ヤードは、ゆっくりと走りたい。演劇好きな人は気づくだろうが、この直線路は、左側にフェアウェイやグリーンを横目にしながら、しだいにプレーへの気分を盛り上げてゆく劇場の花道である」
そしてまた、注意深いゴルファーなら、OBの白杭が道路の右、外側に立てられていることに気づく筈である。道路もまたイン・バウンズである。」
以上は、平成9年3月に書いた筆者の『白杭は道路の外側に打ち込まれた。(成田ゴルフ倶楽部・川田太三小論)』のリードの一節である。
成田ゴルフ倶楽部では、幅員6メートル、約1000ヤードの直線の進入路もまた、イン・バウンズである。白いOB杭は、道路の外側(進入時の右側)に打ち込まれている。ボールが道路に出ても、ノーペナルテイでそこからプレーできるのだ。
道路もイン・バウンドのうちというコースといえば、すぐに思い浮かぶのは、ゴルフの聖地セントアンドリュース・オールドコース17番ホール、別称“ロード・ホール”である。
ゴルフ国際教養の人川田太三を、インプットされた一瞬であった。
川田太三。昭和19年東京生れ。米国オハイオ州立大学、立教大学卒。ゴルフでは霞ヶ関CC倶楽部チャンピオンの経験。内外のゴルフ事情に詳しく、ゴルフ評論、内外のメジャー級競技のテレビ解説で知られる一方、国際競技では主にナショナルチームの指導で活躍。コース設計でも森永高滝、イーグルポイントなど15コースを設計。最近は愛知、南山、霞ヶ関西などの改造で活躍。現在日本ゴルフ協会(JGA)常務理事、国際委員長。(株)T&Kインターナショナル代表取締役。日本ゴルフコース設計家協会理事長。
筆者は、スタートして間もないアウトコースで、川田設計の非凡な作品にめぐり逢った。名作には2つある。力を揮った作品と力を抑えた作品である。3番(567ヤード・パー5)、5番(418ヤード・パー4)はどちらだろうか、微妙である。しかし、コース設計上は力を揮った作品であろう。
小川を挟んだ狭隘な谷間に、2ホールを入れることに設計者は、苦心した筈である。狭くて面白くもない2ホールを並べることは簡単だ。しかし上質のプレイアビリティをもつ2ホールを並べるには、新しい発想が必要になる。そこで設計者は、川を挟んで、スライスショットを拒否する2つのホールを逆方向、行き交いに置いてみせた。それぞれのフェアウェイは右へ傾けることで、丘からの表面水、伏流水を中央の小川へ集めようと試みたのである。
こうして3番と5番は、攻略するのに最も慎重さと果敢さを要求するホールとして、プレーヤーを緊張させている。
アップバンカーをどう攻める
筆者が1番気に入っていたのは、17番(501ヤード・パー5)ホールである。日本では見かけることの少なくなったアップ・バンカーのあるホールだから、好きである。
パー5にしては距離が短い。しかもフェアウェイは殆ど平坦である。2オン狙いを誘う眺めだ。しかし、グリーンが右下、さらに右へバンカー、小川と囲んでいる。2オン狙いはフェアウェイ真っすぐからフェイド狙いとなる。それを防ぐために、設計者は、グリーンの上の法面にバンカーを置いた。すなわちアップバンカーである。
日本では少ないが、グリーン面より高い自然の隆起、小丘、マウンドを利用することの多いスコットランドでは、アップバンカーは、普通に見かける景色である。川田氏はアメリカ派の理論家だが、その設計美学にはスコットランドと通底するものがあるようだ。
共用グリーンも日本のコースには少ない。しかし当初の成田Gでは、3番と16番の共有グリーンの他にもう1つ、9番グリーンと練習グリーンが共有になっていたが、今はどうか。練習グリーンとの共有は、米英でも珍しい。正式競技の時ルール上の疑義が生まれることはないか、どうするのか、取材したことがあるが、それは後日に譲る。
所在地 千葉県成田市大室127
コース規模 18ホール・7140ヤード パー72
コースレート 73.1
設計者 川田太三
開場年月日 昭和63年11月3日
経営 (株)アコーディアゴルフ