第84回 パームヒルズゴルフリゾートクラブ
ロナルド・フリームという設計家
ロナルド・フリーム(Ronald Warren Fream)という米国人のコース設計家を知っていますか。
1942年3月16日米国カリフォルニア州生まれ、カリフォルニア工科大学で園芸学、ワシントン州立大学で芝生管理学科を学んでいる。1966年ロバート・トレント・ジョーンズのゴルフ場建設工事の下で働き、4年後その社員となる。1972年設計専門の事務所を独立・英国のジョン・ハリス(マッケンジーと組んで近代設計の祖といわれるハリー・コルトは彼の岳父である)と組んで、米国以外の海外に仕事を広めた。米国では、サンフランシスコのオークハーストCC、海外では、スウエーデンのメリンダルスGC、フランスのフラガータG場、シンガポールのセンター・ザ・セラポニーGCなどが代表的。
日本では、大村湾CC西コース、北海道のハッピーバレーGC、沖縄のパームヒルズゴルフリゾートCがある。(以上、佐藤昌『世界のゴルフコース発達史』による)
付け加えればロナルド・フリームの日本における最高傑作は最も新しい作品「ボナリ高原ゴルフクラブ」であろう。
「今あるコースの中で最も素晴らしいと感じるのは自然が創ったコースです。」
とは、アリスター・マッケンジーの言葉である。ロナルド・フリーム設計ボナリ高原GCの3番ホールは、この名言ぴったりの名ホールである。250ヤードで右折する高さ60メートルの断崖沿いに延びる530ヤードのパー5ホール。断崖の足元には、広大な会津盆地、猪苗代湖の景色が広がり、その向こうには磐梯山が聳えているというスケールだ。右ドッグレッグのフエアウエイを辿らず、断崖越え250ヤードを試みればボールは転々「残りは230ヤード・8番アイアンで正面から磐梯山狙いですよ」(ロナルド・フレームの言葉)というドラスティックなホールである。日本経済新聞の「ゴルファーが挑みたい名物ホール」で、第1位に選ばれたホールである。そこにある自然をスッポリ鷲掴みにした名ホールだ。
同じロナルド・フリームの設計ながら、沖縄のパームヒルズゴルフリゾートクラブは、その対極にある。コースもハウスも沖縄の観光材を全投入したようにデコラテイブ(装飾的)で楽しいコース展開である。
沖縄の観光材を全投入した魅力
クラブハウスも豪荘、南欧風ともアラビア風とも見える3階建。うっかりすると迷子になりそうに広い。リゾートとはこんなものかと思わせる非日常いっぱいの雰囲気である。
植栽も多種類の椰子類、フェニックス、ガジュマルなど南洋系の樹木でいっぱい。さらに琉球の色合いを出すために、珊瑚礁の泡石をふんだんに取り組んでいて、それはそれなりに雰囲気づくりに成功している。つまりコースもハウスと競うようにデコラテイブ(装飾的)である。
ゴルフコースは、その土地の自然の中につくられるものだから、その土地個有の植物、立木が採用されるのは当然だが、採り入れ方の手つき、たとえば、同じフリーム設計のボナリ高原GCが抑制的なのに対してここはひどく自己顕示的である。クラブ名称にもあるように、リゾート客への訴及を主におけばそうなるものか。中でも、ガジュマルの気根などはここだけのもので珍しい。
ウォーターハザードの置き方にも現れている。たとえば2番、4番、7番、9番、18ホールなど、池やクリークの絡むホールが多いのも特色だ。9番ホールのクリーク、18番グリーン前のクリークは、あきらかに戦略的に配置されたものだが、13番(パー3)のスルー・サ・グリーンに斜行してつくられている、長い渓流風クリークのように装飾的な意味だけで置かれているものもある。
装飾的だけではない。筆者の目に戦略的に際立ったホールもある。9番などいくつかのホールでグリーン前、あるいは第2打ゾーンを、クリークが横断している設計は、装飾的の域を越えて戦略的に配置されたクリークであって、十分に効果を上げている。
また、11番(パー3)は、グリーンの変化に特色があった。グリーンは右への傾斜が大きく、落ちたときのピッチ如何では、球が右バンカーに流れ込むようになっていて、165ヤードという距離を超えて、攻めの緊張感があっておもしろい。
ひめゆりの塔を望む12番ホール
筆者が推せんするベストホールは、12番(579ヤード・パー5)である。右に糸満の市街。前方にひめゆりの塔を遠望しながら、打ち下してゆくパー5ホールである。1打、2打、そしてグリーン狙いの第3打まで、いずれも視界が狭く、微妙なダウンブローのショットが続く。つまりテイからグリーンまで、各ショットに緊張が求められる、という意味で、このコースのベストホールであろう。左右の立木は沖縄らしい風物詩を演出していて秀逸。第3打地点の左側の林の中にはカメレオンが棲息していたが、今はどうか。
ともあれ立木の種々、隆起珊瑚礁、青い空、吹く風まで、沖縄の観光材を全投入したコースだという意味でデコラテイブで楽しい。沖縄行スカイゴルフで記憶されていいコースの一つである。パームヒルズゴルフリゾートクラブのコースは用地が平坦で単調だったので、コースそのものが装飾的にならざるをえなかった、とロバート・フリームは言うのかもしれない。
とはいえ、スカイゴルファーにとっては「沖縄へ来た」と印象づけるに十分な力を持ったコースである。
名称 パームヒルズゴルフリゾートクラブ
所在地 沖縄県糸満市字新垣762
コース規模 18ホール・7050ヤード・パー72
コースレート72.9
設計者 ゴルフプラン社(ロナルド・フリーム)
開場年月日 平成3年11月7日
経営 ㈱パームヒルズゴルフリゾート