第69回 西那須野カントリー倶楽部
「日本の100コース」で上位ランクアップ
ゴルフダイジェスト社の雑誌『チョイス』が、毎年誌上で発表している「日本のベスト100コース」という企画がある。全国100名のパネリストを動員して、毎年末ベスト100コースを選び出している。2011年のチョイスでは、僅か5コースが新しくベスト100入りしただけ。
その中に西那須野カントリー倶楽部があった。ベスト20入りだ。因みに、同じホウライ(株)経営の兄貴分のゴルフ場ホウライカントリー倶楽部は、第40位グループにノミネートされるに止まっていた。西那須野CCが追い越したのである。かねて西那須野CCファンの筆者が、敢えて今、採り上げた動機である。
千本松牧場の歴史
東北自動車道西那須野塩原ICで降りて、国道400号線を約800メートル進むと、(または東北新幹線那須塩原駅で下車、タクシーで15分)右側に「ホウライの千本松牧場」の看板が見えてくる。直進。つぎの交差点を右折、直進するとやがてホウライCC入口、さらに直進すると西那須野CCに着く。
二つのゴルフ場に隣接して、広さ250万坪の広大な千本松牧場がある。
ゴルフ場は、ホウライCCが平成2年開場、西那須野CCが平成5年開場、誇るほど古くはないが、千本松牧場は、伊藤博文、西郷従道、松方正義ら明治の元勲たちによって設立された那須開墾社が発祥。以後広大な農場、牧場は、松方正義の十五銀行、三井銀行系のホウライ(株)に受け継がれ、今も場内に松方別邸が遺っている。
因みに、平成の始め、首都機能移転が騒がれていた頃、千本松牧場と2つのゴルフ場を含む400万坪が、その有力候補だったことを知る人は今ではそう多くはない。
ホウライCCも西那須野CCも、設計者は、ロバート・ボン・ヘギーである。R・T・ジョーンズのライバルといわれたディック・ウィルソンの下でコース設計を学ぶ。独立後は、“光の魔術師”といわれて人気が上り、代表作はマイアミのドラールGC。日本では、河口湖CC、身延山CC、桂ヶ丘CCなど9コース。“光の魔術師”とは、絵画でいえばセザンヌ、フェルメールなどに代表される印象派。現実を今そこにある景色以上に美しく描いて見せることだ。ドラール、河口湖、ホウライ、西那須野には、光溢れる美しいコース造形がある点で共通しているといえないだろうか。
ボン・ヘギーは、千本松牧場の広大な広がりの中に、“日本のドラール、高原のドラル・ブルー”をイメージしていたのかもしれない。
牧草のヒースとバンカーとパンパスグラス
ホウライCC、西那須野CCともに、日本でも水準上位のゴルフコースである。
どちらがよりよいコースか、となると今までは、ホウライCCが上位に見られがちであった。創立当初の日本ゴルフツアー選手権が、会場に、第1回~3回まで西那須野CCではなくホウライCCを選んだことでも判る。ホウライCCは、より完成されており、西那須野CCは、部分的にまだ実験途上にあるという評価があった。
しかし筆者は、始めから西那須野CC優位であった。筆者には、西那須野CCとの印象的な出会いがあった。平成8年12月、筆者は初めてのラウンドを、つぎのような熱い表現で書き出している。
《10番(435ヤード・パー4)テイに立ったとき、一瞬の迷いもなく、
「ああこの景色は、TPCソーグラスの10番ホールだ」
と思った。両側に高く赧い木膚の赤松が並んでいる姿、深い緑のベントグラスの中に白く映えているバンカーリングの美しさ。これは5年前に米国フロリダ州ポンテビデラビーチ・ソーグラスで見たゴルフコースの景色にそっくりだった・・・》
TPCソーグラスのコースは、米国トーナメントプレーヤーズ機構の本部を置くゴルフ場で、開場以来準メジャーのプレーヤーズ選手権を開催、他コースとは一段上の存在である。設計はピート・ダイ。
あの時、アメリカ杉の美しい林立を、ラインダンスの踊り子の肢のようと表現した記憶がある。ポンテビデラは砂場の湿地帯だから、アメリカ杉は、スラリと細く真直ぐである。千本松牧場は、比べて肥沃、赤松はやや野性的、それでも美しい幹立が並ぶ風景として、ピートダイとボン・ヘギーの感性に通底したのだろうか。
このインパクト十分の経験が、筆者を西那須野CC贔屓にしてしまった。
9番(436ヤード・パー4)も、TPCソーグラス18番ホールを彷彿させる。テイからグリーンまで左側に大きな池が広がる。第1打は池越え、フェアウエイはやや左湾曲するように延び、さらにグリーンは池側に左折れしながら池の上に、水面を覗き込むようにのびる。しかも5段変化だ。TPCソーグラスの18番は、ストレートに陸の上だから、その分西那須野CCがより難しい。第2打も水面上のグリーンを狙う形となる。ここは第2打を真っ直ぐ打って、第3打を花道からショートアプローチか。第1打の飛び如何である。
14番(372ヤード・パー4)は、池越えで2オンを狙う左ルートと、第1打を丘の上に運び、第2打をグリーンへ7メートル打ち下して攻めるルートと、二つを用意してサアどちらを選ぶかと求める設計である。考えるか考えないか、無謀か果断か、試されるのはプレーヤーである。
6番(427ヤード・パー4)は、第1打の落下点の先に、巨大で長いバンカーが横たわり、さらにグリーンまでの150ヤードは縦割れの巨大バンカーが穿たれている。凄い迫力をもったバンカーリングである。どこにランディングポイントを選び、そこに正確に運べるか、ここでもプレーヤーは試される。
このコースは牧場につくられている。そこで設計者は、コースの装飾に牧草を使った。牧草は育ちすぎるので、恐らく計算された量と高さで整えられているので、そっくりスコットランドのヒースである。18番(413ヤード・パー4)の背後をバンカーと牧草のヒースと独りだけ背の高いパンパスグラスで飾って見せている。
所在地 栃木県那須塩原市千本松804-2
コース規模 18ホール・7036ヤード、パー72
コースレート・72.9
設計者 ロバート・ボン・ヘギー
開場年月日 平成5年5月25日
経 営 (株)ホウライ